音声案内システムに関する視覚障害者ユーザー調査

3.考察

はじめに −調査から見える視覚障がい者の外出−

今回の調査対象者は、重度の視覚障がい者が多かったが、7割の人が高い頻度で外出し、6割が単独歩行をしていた。

重度の人も積極的に社会参加する人が多い一方、極端に外出の機会が少ない人も存在していることが伺える。

1) 音声案内システムの認知度

調査対象となった4システムについて、1つ以上知っている人は、全体の88%であったが、実際に体験した事がある人や、システムについての具体的な内容までを知る人は、非常に少ない現状であった。

原因は、多くの視覚障がい者が挙げているように、システムが統一されていないこと、設置箇所が少ないこと、そして、情報提供が十分になされていない事であろう。

特に、情報障がい者である視覚障がい者に対しては、様々な媒体での、きめ細かな情報提供が重要であるが、それが積極的になされていないことが重大な問題である。

2) 音声案内が必要なポイント

外出のどのような場面で、音声情報を求めているかが、今回の調査で明らかになった。

@建物の中で必要な情報

入り口を見つけること、人がいるところまで行き着けること、介助を求めにくい場所で十分情報がえられること、これらを考慮したシステムの導入が必要である。

A屋外で必要な情報

【駅やバス停の位置・行き先】

対象者の8割が公共交通機関を利用していることを背景に、駅やバス停等での案内は、非常にニーズが高い。

バスは、停車位置や行き先などの情報が入手しにくいことから、バス停の位置を知らせたり、これから来るバスの行き先を告げる案内などが有効と思われる。

駅の場合は、特にホーム上を安全に移動できるよう、危険を察知する音声案内が必要になると考える。

【現在位置】

目的地にまちがいなく向かっているか、方向や距離を確認するためにぜひとも必要な情報であるが、実現するには、多くの技術的・コスト的な課題がある。

【信号交差点】

音響信号のない大きな交差点や、複雑な形の交差点を中心に、必要度が高いと思われる。

弱視や中途視覚障がい等で、歩行訓練の経験のない人では、車のアイドリング音だけで信号の色を推測することが非常に困難である。

歩行訓練をうけた人でも、最近のHV車の普及により、アイドリング音を手がかりにすることが難しくなってきていることも考えると、

音響信号の普及とあわせて、音声案内の必要性が高まっていると思われる。端末をもっていれば、必要に応じて色を教えるものが有効と思われる。

B運用上の問題

音声案内システムの設置を考える場合、設置箇所だけではなく、設置の仕方や、流す案内の内容も重要である。

せっかく設置されていても、存在がわからなければ意味がない。

また、「エレベーターのドアは、こちらに開きます」といった案内では、流れてもその方向がわかりにくい事もある。

設置に際しては、可能な限り当事者をまじえての検証を重ね、設置されていることが容易にわかるか、説明のしかたは適当か、音声は十分にきこえるかなどを検討することが必要と考える。

3) どんな場所で特に必要か(設問4)

【駅・バス停から施設へいたる道のり】

電車やバスを降りた瞬間、どちらに進んでよいかわからなくなってしまう。

せめて視覚障がい者が多く利用する施設には、最寄の駅やバス停から、迷わずに移動できるように、音声案内システムを整備する必要がありそうだ。

その場合には、点字ブロック、音響信号、触地図版、大きな文字の表示物等、ほかのシステムも効果的に組み合わせることも重要であろう。

【商業施設】

買い物は、視覚障がい者には非常に困難な日常動作である。

特に大型で、店員の少ない場所は困難が大きい。また、必要とする情報も多く、システムだけに依存するのはほぼ不可能であろう。

基本的には、人のサポートが最も有効であるが、入り口からインフォメーションまでの方向や位置がわかるだけでも非常に有効と思われる。

また、音声案内の設置されたエレベーターは不可欠である。

【宿泊施設】

旅先の宿泊施設では、なれない場所での移動・生活となるため、情報提供のサポートは非常に必要となる。ところが、宿泊を伴う移動では、ガイドヘルパーが活用できないため、音声案内はより重要となる。

音声案内の設置された部屋やトイレ、エレベーターが一部にでもあれば、困難は軽減するとおもわれる。

【障がい程度によるニーズの違い】

今回の調査から見えてきたのは、全盲は生活に密着したニーズ 弱視は娯楽性のある場所や広い場所でのニーズが高い ということである。

より外出の困難な全盲の人の、生活に欠かせないニーズを優先しながらも、弱視の人のニーズにも目をむけていくことにより、視覚障がい者全体のQOLの向上につながると考える。

4) 音声案内システムの普及に必要と思われること

音声案内システムの利用には、端末の購入が必要なことが多いが、利用可能な設置箇所が少なく、システムも統一されていない現状では、購入したいというニーズは生まれにくいと思われる。

さらに、システムに関する情報の少なさ、どこで購入できるのかさえ知られていない現状が、この普及率の低さにつながっていると考える。

5) ユーザーからの要望

上述のことは、利用者の要望内容を分析することで、より明確になってくる。

設置箇所を増やしてほしいという要望は圧倒的に多かった。システムへの潜在的な期待の大きさが現れている。

システムの統一に関する要望も多かった。限られた場所で、限られた端末でしか利用できないシステムではなく、いつでも、どこでも利用できることへのニーズであると考える。

前述のように、情報に関する要望も多い。システムそのものの基本情報はもちろん、利用の仕方や、端末の入手方法、福祉の制度が活用できるものもあるという事実、そして、どこで利用できるかという情報が非常に重要である。

提供元としては、メーカーからはもちろんだが、自分の身近な地域で、ふだんよく利用している施設等からの提供が望ましい。仲間同士の情報交換も重要で、地元の視覚障がい団体等からの提供も効果的と思われる。

また、媒体としては、インターネット、電子メールはもちろんだが、点字毎日などの新聞、点字図書館などの発行する機関誌など、点字・拡大文字の紙媒体・音訳媒体での提供も、重要である。ただ、視覚障がい者は高齢の人の割合が高く、パソコンも、点字も、活字文字も読めない、という人も多いことから、当人だけではなく、周囲の人たち、たとえば家族や福祉関係者などへの情報提供も忘れてはならないことである。

あわせて、体験会を各地で積極的に開催することも、効果的と思われる。

6) 今後の展望

要望の中には、端末をなくしてほしいとか、携帯電話のように誰でもが持っているもので、利用できるとよい、白杖に反応するシステムがあるとよい、といった意見が目立つ。

視覚障がい者の外出は荷物が多い。白杖・盲導犬のリード・ルーペ・単眼鏡などが手をふさぐため、端末を手でもつこと自体困難であり、安全な歩行の妨げとなることもある。端末はないのが理想であり、あるとしても、なるべく手をふさがず、軽量でポケットにもはいるものが望ましい。

また、情報をうけるだけではなく、自分で必要な情報を選択したい、カーナビのように、目的地までの経路を音声案内してほしい、という意見もあった。

現状では、技術的に、またコスト的にも難しい問題が多々あると思われるが、こうした要望があることを念頭に、今後のシステムをより利用者の視点で、より使いやすく進化させていってほしい、と願うものである。